SEVENTH HEAVENS
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グッピーと木化石 2010/4/18
私の一週間の半分は店の水槽の前ではなく、街中に点在する水槽の前に立っている、その一つに老夫婦が住む家の小さな水槽がある。そこには古風な木化石が並び、グッピーが泳いでいる。二ヶ月に一度ほど私はその水槽の掃除をしに行く、ガラスを拭き、水を半分ほど交換し、作業は30分ほどで終了する、そのあとは部屋の片隅のテーブルの来客用の椅子に座り、いつもの椅子に座った老夫婦とお茶を飲みながら一時間ほど話をする、掃除代として2500円をいただき、帰り際に老婆は満面の笑顔で私に500円を握らせてくれる。

老夫婦はその水槽のグッピーをこよなく愛している、毎日必ず水槽を覗き、稚魚の様子や横たわる老魚に一喜一憂し、欠かさずに餌を与えている。ただし、体に負担のかかる作業だけはできないので、そこは私が代行している、セブンスの最高のクライアントの一つ。私が管理している水槽は単なるインテリアや税金対策といった情熱の無い契約は一つも無い。この水槽もその一つ、以前の水漏れで今でこそ最近の機材になったけど、最初は木目調の茶色の三点セットだった、こんな古い機材は初めて見た、道具も大切に扱われてきた証拠だ。

御歳90目前のその夫婦は本当に仲が良い、どこへ行くにも二人一緒だし、互いを認知症目前などと罵りながらも必ず笑顔。そしてご主人はこの歳でインターネットをバリバリこなし、奥様は携帯電話で写真を撮って遊んでいる、夫婦で刺激し合い現代の風潮に負けてなるものかと挑戦を止めようとしないまさに私にとっての理想の夫婦で、いつも会うたびにこうでありたいと思ってしまう。

私はそんな二人の人生にほんの少しではあるけれど参加することができて本当に幸せだと思う、やらなければならない事はたくさんあるけれど、今一番大切なのは私の目の前にいる人、私を頼りにしてくれている人に、私の持てる技術で支えてゆく事。これだけは断言できる。

老婆の振るえる手が私に三杯目のお茶を注いでくれる、こんな時間がもう少し続いてくれればよいのだけれど、もう店に戻らなくてはいけない時間。「また電話ください」と言い残して立ち去ろうとする時、老婆は満面の笑顔で私に500円を握らせてくれる。