夏、8月、暑い、しかも日本各地では街が沈みそうなほどの豪雨が時折降っている、そんな時にわざわざバイクで旅に出るなんて…いいじゃないですか〜!半ば強引に友人に誘われた旅ではありますがこれも人生修行の一環になりそうなので一緒に行く事にしました。目的地は「横手山」の山頂で長野と群馬の県境にある山らしい、ハーレー乗りにとってはある意味聖地のような所なのであります。しかもバイク旅初めての野宿という事もあり期待は高まります、今までコツコツと買い集めてきた野宿道具がついに本領を発揮します!その他に必要なものを訪ねると「真冬の防寒具」とな、予習していた中でもとにかく寒いという事だったのでフリースを一緒に詰め込んだ。この日の為に購入した防水バッグをバイクに平ゴムで縛り付ける、数歩下がってそれを眺める…やっぱりいいわ〜、思わず写真を撮った。
 この日の為に出来る限りの整備は済ませてきた、その効果もあってかエンジンは絶好調、のんびりと楽しみながら走って行こうかと思っていたら先頭の友人はオーディオのボリュームを全開にして、スロットルも全開、すり抜け、追い越し、車線無視…ついて行けねぇ!初めてバイクに乗って息が切れた。 
 山の麓までたどりついて今日の晩餐の買い出しをする事になった、今回はアウトドア料理の達人(趣味)が同行してくれているので料理は全ておまかせ、なので俺らは酒調達担当です。買ったのは缶ビール2箱、チューハイ10本、焼酎1升…こりゃ大人数での大宴会なんだなと思いきや、訪ねてみればせいぜい10人程度だとか!?さすが生粋のハーレー乗りは気合いが違うなぁと感心、負けてなるものかと赤ワインを1本カゴに放り込んでやった。
 

これほど荷物が似合うバイクはない

バイクで登る標高ではないよ

手前にみえるのが「ティピー」

最後はこんな悪路でした

見えますか?本来はリフトで来ます

遊歩道もあり散策には最高


 さぁ、ここからは登りです、開けた視界の遥か上空に蛇行した道路が見える…あそこまで登るのか?見えていたであろう位置まで上り詰めるとまたさらに上空に道が現れる、国立公園内に入り建物が一気に減って、それと同時に体をすり抜ける風の温度が確実に変わってくる、一瞬ひやりとした風かと思うとまた路面の熱気が込み上げる、はじめのうちはこんな繰り返しだったのが次第に路面の熱気が消え、心地よい風にまぎれて首をすくめたくなうような冷気が混じるようになる、坂を上るハーレーのエンジンは荒々しく、その冷気の中でエンジンから発する熱がリアルに感じ取れるようになってくる、馬に鞭を打つような気持ちでアクセルを捻ると再び唸りを上げて登りだす、これが愉悦の空間というものか?体から霊魂が抜けそうになる頃にリフト乗り場に到着した「横手山山頂行きリフト乗り場」一般の方々はここに車を停めてリフトで山頂まで登る、しかし俺らはそのリフトの横の鎖を外してさらに延びる悪路を再び登り出す、到着間近の頃には冷気と共に灰色の霧に包まれた、そう俺たちは雲の中にいるのだ、しかもバイクに乗って。
 他のメンバーは東京方面から合流する事になっているのだけど、どうやら群馬で大雨に打たれているらしい、今年は本当に局地的なにわか雨が多い、長野はあんな猛暑だったのに。だけどもうそんな猛暑の事なんて思い出せない、雲の中に入った途端に風が強まり、冷気が体を打ち付ける、さっそくで悔しいけど持ってきたフリースを着た。今日は日本中が30度を超える猛暑の8月9日…信じられない!
 

雨雲の間から日が差す

群馬方面は豪雨だったらしい

あの雲の下は夕立ちだろう

ティピーで焚火を囲みながら夜は更ける
 
 テントの支度をしながら東京組の到着を待っていると、下の方からドコドコとエンジンの音が聞こえてきた、そこに現れた4台のハーレー、ただでさえバイクで登ってくるってだけでも脅威なのにそのうち2台はサスペンションを装備していない、さらにそのうちの1台はもはや60年前の代物である、それが生き様なんだ。はっきりいってクレイジーだ!
 キャンプでの夕飯はダッチオーブンを用いた本格的なアウトドア料理だった、コーラで煮た角煮に始まり、蒸し野菜、アサリの酒蒸し、タンドリーチキン、パエリア等…今までこんな豪華な食事をキャンプでした事はない、そして酒だ!あの大量の缶ビールが次々と空になってゆく、さぁて負けるものかと赤ワインの栓を抜く、言っておくが俺は酒が飲めない!以前は飲めた、平気でワイン1本は空けていた。それはもう高校の頃の話しで成人を迎える頃にはすっかり体が受け付けなくなってしまったのだ(平気で自白したけどもう時効だよな?)。しかし今日は勝負しないわけにはいかないぜ!楽しい話とうまい料理と共に1時間で1本…水のように飲んでやった、まだ意外にイケるじゃねぇか俺。それにしてもこのメンバーは皆すごい個性を持っている、趣味でエンジンを組める人、15年で16万km日本中をバイクで旅した女性、ケツの割れそうなバイクに平気で乗る人、アウトドア料理の達人、16歳も年下の嫁さんがいる人、とにかくオモシロイ人×2名、それにひきかえ俺はどうだ?なんっにもない、黙って座っている事しかできない、みんなすごいカラーを持っていて、その色にしっかりとプライドを持っていて…その時の俺は無色透明、無味無臭、30年以上も生きてきて実は俺って何もしてこなかったのかもしれないなと、焚火を見ながらふと思った。
 そんな消極的な考え事をしていたからだろうか?それとも軽度の高山病か?軽い頭痛がして気分がわるくなってきた、いやまて?これは単なる悪酔いじゃないか!やっぱりダメだったか、ヤバい吐きたくなってきた〜!でもダメだ、専門学校の時に友人達の前で「大ヤマト砲」を炸裂させて以来、酒で吐くのは封印させたのだ、すみませんお先に就寝させていただきます。
 テントで寝るのは中学の時のキャンプの時以来でもはやその時の記憶もほとんどない、バタバタと風でなびくテントの音を聞きながらシュラフに包まった。きっとこの先こんな状況が多々起こるのだろう、野宿に憧れて道具を揃えて…が、この旅2度目の告白をさせてもらうと、俺は外泊で寝る事ができないのだ!家族と温泉に行っても、友達の家に泊まってもほとんど寝る事ができない、しかし明日は普通に仕事があるし帰りも峠道をバイクで帰らなくてはならないから寝なければ確実に「死」に近づく、1時間以上も頭痛に耐えながらようやく意識が遠のいた頃に叩き起こされた。時計は午前4時半、俺はそいつを恨んだ。しかし、眼下に広がる光景を見たと同時にその恨みは感謝に変わった。
 

朝の4時半

群馬方面は雲の下だ

目の前に雲海が広がる

雲海は一瞬にして姿を変える

 

 それは文字や画像では決して表現できないだろう、そして車やリフトで登ってきた人達にも同じものは見えないと思う、自分の家からこの山の山頂までの全ての空気を吸い込み、匂いを感じ、風を受けて、愛車をいたわりながら登ってきたものだけが心で感じることのできる光景。何故かはわからないけど「今日1日の自分が今生まれたんだな」と感じた、その片鱗だけでも上の画像で感じてもらえたらうれしい。
 瞬く間に陽は昇り 「人間的な」朝の時間になった、仕事の都合でもう帰路につかなければならないので、朝食もそこそこにお世話になったみなさんにお礼とお別れの挨拶を交わし、エンジンをかけた。気圧の低い高地ではややご機嫌ナナメではあるが走るには全く問題なし、さぁ帰ろう、山を一気に下ろう、2305m下には日常の生活が待っているけど、今までより少しだけ輝いているはず。