AIR 2012/10/5

防音壁に囲まれた高速道をスピードメーターの壊れたハーレーダビッドソンで走り続けた。両腿に猛然と回る灼熱の内燃機を抱え、むき出しの体で凄まじい威力の風を全身で受け止めるのは現代の乗り物として異質なものになってきているだろう。それと引き換えに白く引かれた線に縛られることの無い自由を手に入れて、その開放感と転倒すれば死に至る緊張感の複雑に入り混じった精神状態はオートバイに乗った者にしか解らない感覚、そして唯一俗世と結びつける速度計が無くなり、俺は人間が勝手に決めた法律からも解き放たれ地球の生命体の一つとしてただ右手のスロットルの思うがままに鷲のように滑空していた。

「何もいらない」そういう事なんだろう、身の回りの物はもちろん日々の悩み、地球の上で前に進んでゆけばいいだけの俺達の存在意義に対して、必要な物は何もない。人間を襲う癌細胞のように惑星資源を貪り続け、壊滅寸前まで追い込んだところでようやくその一片が見え始め、それでも日々争うようにドロップアウトされる新製品群、売れ残り商品の叩売り、周りに物が溢れているのに見えない明日に怯え今日も続く資源争い。

ショベルヘッドと呼ばれる30年前に製造されたハーレーは何一つ大きなトラブルもなく走り続けている、100年以上の歴史を持つハーレーダビッドソンの歴史の中ではまだ新しい方だし、それよりももっと古い物が世界中で走り回っている。100年間変わる事の無い信念を貫いて作られたオートバイは人々を魅了し、たとえ壊れてもしっかりと直され、親から子へ、子から孫へ何代にも渡って乗り継がれている。あなたの所有している物の中でそういう物が1つでもあるだろうか?

俺は物を売るという仕事をしているにも関わらず、その製品が大量生産、大量消費の領域を脱していないのに例えようの無い空しさを感じている、俺自身が生きてゆくためには自分が必要と思わない物にまで値札を付けないといけないのか?
もう1度自分の仕事を、その意義を見直して見ようと思う。使い捨てを手に入れる為の無意味な大金を手に入れるよりも、授業参観で我が子が胸を張って発言できるような誇りの持てる「父の仕事」を目指そう、きっとそれは自分のため、家族のため、あなたのため、そしてこの惑星のためにほんの僅かではあるけれど力になれる事になるだろう。

友よ、残念ながら国境という身勝手な線がある限り君と解りえる事はないだろう。

友よ、それが正義というのなら、戦わなくてはいけない時があるかもしれない。

友よ、だけど俺達は知っている空に国境など無いという事を。

友よ、大空を自由に舞う鷲は教えてくれるさ。

友よ、命の鎖は地球上全ての生命と繋がっているという事を。