phantom 2010/10/18

 仮想が現実にもの凄い速さで近づいてきている、映像や音声、通貨、ましてや人間関係まで現実での重要度を超えようかというところまできている気がする。仮想になぜそこまでのリアリティを求めているのか俺にはわからない、手に振動を感じながら球場さながらの臨場感で野球ゲームに熱中する子供達はドアの向こうでキャッチボールをするだけでそれ以上の感動を感じることができるのを知らないのであろうか?速球を受け止めたときの手のひらの痺れや擦りむいて血のにじむ肘の痛みは野球をする中では排除されるべき感覚なのであろうか?野球を楽しもうとする子供達にこれ以上のリアルな仮想を与えようとしている大人達の目指すところは一体何なのだろうか?
 テレビが立体映像になった、家電用品店のディスプレイには水槽を泳ぐマリンフィッシュの映像が流れている、その映像を眺めながら改めて自分の手にかけている仕事の凄さを実感することになった、俺の創る現実にデジタルで映し出される仮想は絶対に適わない。色調の美しさはもちろん、照明から感じる暖かさ、水や草の匂い、かすかに奏でる魚の威嚇音は仮想の周波数で表現することはできないだろう、デジタルの介入する余地がない奇跡の職業を俺は手がけている。
仮想に過敏になっている人をよく見かけるようになった、匿名の戯言をむさぼるように閲覧し、まるでアレルギー反応を起こすように躍起になっている。大丈夫か?地上の光を見ないうちにモグラのようにあなたの目は退化してしまったのではないですか?100万の亡霊に怯える前に目の前の1人の人間の為にに死力を尽くすべきではないですか?
いつからそんなに失敗に怯えるようになったのだろう?なぜ挑むことを拒むのだろう?初めてバイクに乗った高校時代、あんなにエンストしてもあきらめず、やがてどこまでも走ってゆける無限の翼を手に入れたときの感動はいつしか仮想の血も流れない世界に埋もれてしまったのだろうか?
 立て若人よ、己の前に道はない。鉄馬に跨り、左足でクラッチを踏み、左手でガシャリとギアをローに入れ、無き道を猛然と進んでゆけ、汗と埃にまみれて走るあなたは決して亡霊なんかではない。