2010/8/23

 乾いた空気が砂埃を巻き上げ遠くの山並みが霞む。その向こうには積乱雲が天をつかもうとその不格好な腕を伸ばす。稲穂が垂れ始めた田んぼの片隅でそれを眺めると地面から生ぬるい風が身体をなでてゆく。俺は夏が嫌いだ、意味もなく世間が特別視するあの風潮が一番嫌だ、日本の四季は1年を通じてすばらしい、どの季節が特別という事はない、つまらない季節もない。
「そんな漫画のような人生なんて…」「映画やドラマじゃあるまいし…」自分の人生をそんなふうに悲観する人は多い、あなたの人生は映画やドラマ、もちろん漫画でもない。でも俺から観ればあなたの人生は映画やドラマよりも感動的で漫画よりもミステリアスだ、何よりもあなたが生まれたその理由でさえ不要と罵られた世界一のスーパーコンピュータは解明できない。毎日がつまらないのではない、自分で探そうとしていないだけ、それを家族や政治家のせいにして遠くを見つめながら毎日を過ごすのはナンセンスである。報道番組に登場する年商日本一だ世界一だのに躍起になって向三軒両隣でいがみ合っている経営者の姿にため息が出る、あなたは人間ですか?ならばなぜそんなに数字ばかり見ているのですか?作った笑顔で最後の客を送り出し、真っ先に確かめる「本日のウリアゲ金額」、社員を怒鳴る厳しい表情の裏に見える孤独感、生命感の少なさ、世界一になったあなたの周りにはきっと誰もいなくなっている、そこに立っている人間とはただカネでつながっているだけだから。偶然ここで生まれただけだけど、上越で店を構えることができて本当に良かった、夏の逞しさ、秋の寂しさ、冬の厳しさ、春の優しさ全てをはっきりと感じ取ることができるし、時間はゆっくりと流れ、人は土と共に生きる、このリズムが俺を人として留めてくれている。
 夏は特別ではないと書いたけれど、記憶に残っていることは多い「川で魚やカニを捕ってはしゃいでいた小学時代」「夏休みに部活をサボって殴られた中学時代」「親に反抗してずっと一人暮らしだった高校時代」この店を始めたのも夏だった、そして今も高校野球の決勝戦の時期に思い出す。夏はいろんな事が起こる、それを重ねて人の旅は深く、ミステリアスで、感動的になってゆく。
俺の人生は誰よりもすばらしいと断言しよう、他の誰よりも楽しんでいる。好敵手のバッターに真っ向から立ち向かい、渾身のストレートを投げると決めた時のあのピッチャーの笑顔と同じように。沸き立つ観衆、喜怒哀楽を表裏なくさらけ出す球児達、試合終了のサイレンと共にセブンスは秋の支度を始める。