シンデレラ 2009/12/14

 キューブガーデン(現:キューブガーデンスペリア)のオーナーになった、まだスタンダードタンクがウィルドグラスという名称だった頃に作られた物、ウィルドグラスという言葉や水槽も本当に好きだったけど、でもキューブガーデンの存在は特別だった、でもあまりに非現実的過ぎて実物を見たこともなかったので、どれだけのあこがれなのかもよく分かっていなかったと思う。
 そのキューブガーデンは傷だらけで石灰の固着もひどく、知らない人が見ればとても25万円もする水槽だなんて絶対に思わないような姿だった、恥ずかしい表現だけど使用人だった頃のシンデレラ。まずは泥汚れを落とし、固着した石灰分をカッターの刃などを使って慎重に丁寧にそぎ落としてゆく、右手に刃を持ち、左手で水槽を押さえる。次第にその左手に伝わる感触が今まで感じたことのないものだという事に気づき始めた、ガラスが柔らかいのだ。当然鉱物なので形が変わるとかそういうのじゃないのだけれど、今までの水槽の触った感触が石だとすればこの水槽は水といってもいいくらいに柔らかい、そして何故か温かい、触れることで作り手の気持ちがこちらに伝わって来るようで、それが温かみとなって伝わってくる。製造時にできたであろう小さな歪みでさえ愛おしく思える。この水槽は生きている、割れない限りは永遠だけど着実に年を重ねている。現代の量産製品のようなクローン技術の冷たい物体にこの命は感じられない。
 最後に残った無数の傷を前に俺は悩む、この傷を取ればシンデレラは舞踏会に行くことができるだろう、しかし今まで彼女が積み重ねてきた記憶を消すことになるかもしれない、命を持った水槽がただの物になってしまうかもしれない、さぁどうする?魔法使いはシンデレラにどんな靴を履かせるのだろうか、ガラスの靴か?それとも…?